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狼と香辛料xベルセルククロスオーバー小説、ガッツ「お前に鉄塊をぶちこんでやる」ホロ「!?」 その5

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狼と香辛料ベルセルクのクロスオーバー小説です。

狼と香辛料ほんわか御伽話風の雰囲気を、ベルセルクのグロさが多少壊してしまう感じになっていますが、それでも良いって方、興味が湧いた方は是非是非読んで下さいませ。

・前回のあらすじ

ルナに、黒の剣士に襲われてしまった事で受けた損害を弁償しろと、常軌を逸した言動で責めたられてしまったロレンスだったが、ホロの一喝により、ルナは押し黙り、そしてその損害を、この森を無事に抜け出す事で帳消しにするか、それともこの森に置き去りにされて死ぬかと言う、二択を迫り、しぶしぶと言う感じではあったが、ルナに条件を飲ませる事に。

そんな感じに意見も一致したと言う事で、ロレンスたち一行は、さらに黒の剣士から逃れるため、森深くの道なき道を進んでいった。

 

【第5章 偽りの行動】

「うわあーーー!! ロ、ロレンスさーん!!」
その叫び声を聞くと、こめかみにぴくりと、青筋立つような感覚を覚える。
「すいませーん! ロレンスさーん! 
ロレンスさーん!? 足を滑らしてしまいました! 手を貸してくれませんか!?」
執拗にロレンスに助けを呼ぶ声がする。
その声に怒りを覚えながらも、ロレンスは目を閉じ、深くため息をついて、熱くなった頭を冷やして冷やして、なんとか平常を保った声色で、助けを求める者に返答する。
「……またですか? ルナさん」
ルナがちょっとした傾斜に足を滑らせて転んだのだ。
これで五度目である。
雨も降り、多少ぬかるんできて滑りやすくなっているとは言え、荷馬車移動が長く、すっかり森の中を歩くのが不慣れなになってしまったロレンスでさえ、一度も転ばず、ホロの後をついて行ってるのにだ。
とりわけ、ホロが歩きやすい道を選んでいるお陰かも知れないが。
それなのに、転びまくっていちいち行軍を止めるルナに、一度は最後まで面倒みると決めたが、それでも、いい加減辟易を覚える。
ちなみに、コルも全く転ばなかったが、コルは聖職者になるため、北の寒村から、教会法学を学ぶために、南の町まで歩きで旅をつい最近までしてたせいか、正直ロレンスよりこの悪路をヒョイヒョイ、と器用に歩いていた。
いや慣れと言うよりも、やはり身軽な子供だからだろうか?
まあそれはさておきとして、そんな感じに、ロレンスもコルも遅れずホロについてきてるのに、ルナだけが足を引っ張っている状況なのだ。
そはれはもう、わざとやってるのではと思うくらいのレベルで、何回も。
その証拠に、ちょっとした傾斜にかかると、必ずと言っていいほど転び助けを求めるので、三回目にはもう転ぶとわかっていて、ルナの方へと、体を向かわせている、そんな自分に気付くと、さらに腹立たしさも増し、その後もそれが二回も続けば、さしものロレンスも、腹に据えかねるものを感じる。
「……もう助けませんよ?」
一応釘を刺したが、それでも手を貸してやる自分は、ホロが言うとおり、相当なお人好しなのかもしれない。
そんな自分に呆れながら、ルナを引き起こしてやると、ロレンスは礼の言葉を聞かずに、くるりと背を向けさっさと歩きだす。
そしてロレンスは、ホロに追い付こうと早歩きをする。
少しルナと距離を取って、ルナの動向の真意を聞くためだ。
そんな感じに歩いていると、先を歩いていたコルが、ロレンスの顔を見て、ひっ、と小さな悲鳴をあげると、すぐにロレンスの歩く邪魔にならないようにか端へと移動する。
イラついてたからきっと恐い顔をしてたのかも知れない。
しかし今は、そんなことは気にかけてはいられない。
黒の剣士が迫る焦り、ルナが足を引っ張っる怒り、それをつい許してしまう情けない自分に辟易し、それらの負の感情が合わさって、ロレンスの足音を激昂色に鳴らす。
ずかずか、ずかずか、ずかずかと。
もう何も構わない、知らない、どうなってもいい、ロレンスの頭の中はイライラが一杯になって、煮えるように熱くなる感覚を覚える。
そんな心境だったからか。
ずるり。
今度はロレンスが足を滑らせる。
怒りで周りが見えなくなりすぎて、足元が散漫になっていたのだ。
これで転けるとかなり恥ずかしいぞ。
ロレンスは咄嗟にそう思い、背筋に冷たいものが走る感覚がし、なんとか転けまいと足をもたつかせたが、もう自分では、どうにも出来ない勢いで倒れこんでるので転けるしかなかった。
もう駄目だ、と硬く目をつぶるロレンス。
しかし、いつまでたっても雨で濡れた地面の冷たい感触は来ない。
気づけば、ロレンスは仰け反ったまま静止していた。
腰のベルトを掴まれている感覚がする。
恐る恐る目を開けてみると、いつの間にかホロが側におり、ロレンスが倒れないようにベルトを掴み、支えていた。
「主よ、何をやっとるんじゃ? しっかりせぬか」
「あ、ああ、すまん」なんか今日は謝ってばかりだな。
「あやつは、わざと主をイライラさせようとやっている。 それに簡単に呑まれるな」
ホロはロレンスを引き起こして小声でそう言う。
「やっぱりそうなのか……、って、ええ!? お前わかってたのか!?」
あまりに自然にそう言われたので、流れで、そうなのかと思ってしまったが、後から、すでにホロは、ルナがわざとやってることに気付いていたのに、二重の驚きを感じる。
「わっちが匂いで、人の心が多少わかるのを忘れたか、わざとやっている嘘の匂いがぷんぷんするわ」
「わかってたなら、なんですぐに言わなかったんだ?」
「それは奴の狙いがわからないからよ」
「……狙い?」
ホロはおうむ返しに疑問を返すロレンスに「うむ」と神妙な面持ちで頷き、言葉を続ける。
「あやつがあのように足手まとい演じる理由はただ一つ、行軍を後らせ、黒坊主においつかれる事」
「……! ま、まさか、そんなことをしてルナになんの得が?」
「うむ、わからぬ事とはまさにそれなのだが、……まあ、黒坊主に追い付かせたい理由は、わっちをあやつに殺させるのが目的であろうが」
「こ、殺す!? な、なんでそんなことを?」
「そうだ、それがわからぬ」
「昔、ルナ本人でないにしろ、それ繋がりで、大昔に誰かに恨まれるような事をしたんじゃないのか?」
そうロレンスが言うと、ホロはロレンスを目を細めて見やる、いわゆるジト目をして、心外そうに言葉を返す。
「……わっちは主が好きなような、清くうるわしい清麗の乙女のような生き方をしてきたとは言わんが、それでも、人から命を狙われるような事はしてはおりんせん……!」
ホロはむっとした口調に、棘を含ませた言葉で答える。
「お、おい、それぐらいで怒るなよ、結構重要なことだろ? それがわかればいろいろ対処も思い付くかも知れないし、なにより血を流さないで済む、平和的な解決だってできるかも知れないだろう?」
なんだかよくわからないが、ホロの機嫌を損ねてしまったと思い、ロレンスは慌てていろいろ弁明するが。
「うるさいお人好しめ、わっちはいらいらしてるのだっ……! 察せよ……!」
ホロは小声ながらも怒ったように言う。
ロレンスはそれに、なるべく穏やかな声色で宥めるように。
「らしくないぞ……? 何をそんなにイライラしてるんだ?」
と、ホロを落ち着かせようと心掛けて喋るが、そんなロレンスの努力虚しく。
「えーい! うるさいわっ! わっちだってイライラすることだってありんす!」
と、ぎゅっと目を閉じ、口を大きく開けて、声量気にせず、結構な大声で心のうちを吐露してしまう。
心なしか頬も朱に染まっているような気がする。
まあ、そんな事より声が大きい! これでは内緒話をするために、ルナから離れた意味がなくなる。
「おいおい本当に落ち着けよ! 一体どうしたって言うんだ?」
そうロレンスが言うと、ホロはにゅっ、と口を尖らして。
「……人から殺意を向けられれば、誰だっていい気分はせん」
と拗ねたように言う。
……そうだったのか。
ロレンスはホロの言葉を聞いて、ようやく得心が。
……いや、待てよ? ホロがそんな事くらいで、露骨にイラついたり拗ねたりするか?
得心がいかなかった。
年の功と言ったら、またぞろ脛を蹴られそうだが、もし本当にルナが殺意向けたとしても、小僧が意気がっているくらいにしか感じないで流しそうなものだが。
何かがおかしい、これは……。
もしかしたら、これは何か隠してる……のか?
そう思ったロレンスは、今度はホロをジト目で見る。
それをさすが狼の勘か、敏感にその視線を察知したホロは即座に「な、なんだ!」と言う。
「……お前、何か隠してないか?」
そうロレンスが少し詰問風に聞くと、ホロはさして慌てることなく、ちらりとこちらを一度見ると目を綴じ、そして盛大な溜め息をつくと、観念したように話し出す。
「主よ、わっちは読み違いをしてしまったかも知れん」
「読み違い?」
「う、うむ、あれじゃ、ほれあの小僧をただ者ではないと、言ったあれじゃ」
「……ん、ああ、それか」
ロレンスは、ほんの少し言いよどむホロの言葉を聞いて、顎の先を親指でいじりながら、思い出すように空を見上げる。
見上げた先には、月の木漏れ日はなく、かわりに葉の隙間から抜けてくる雨の雫が顔を叩く。
それにたまらず、すぐに顔をしかめて降ろし、雨が大分強くなっている事を実感する。
そして、なんにせよ、早く黒の剣士から逃げ延びなければ、この雨でどんどん体力が奪われるな、と沸き上がる危機感から顔に若干の焦燥の色を滲ます。
そんなロレンスを横目で見ながらホロは言葉を続けた。
「……わっちは、最初あやつから感じた気配がよくわからず、主に警戒を促すように、ただ者ではないと言ったが、あのよくわからなかった気配はわっちに向けての殺意だったのかも知れん」
「……殺意? そうか、そうだったのか、……でも珍しいなお前が読み違えるなんて」
「今も実はよくわかっておりんせん」
「おい!」
あまりにホロがあっけらかんに言うので、つい声量上げて突っ込んでしまう。
「まあ聞け主よ、わっちも殺意なんぞ久しく受けておらんかったから、わからなかったのじゃ、それにの、やつは殺意の他に別の感情を滲ませておったから、それが匂いを紛らせてさらに分かりにくくしていたのじゃ」
「……別の感情、匂い? それは?」
聞き返すと、ホロはロレンスから視線を外し、忌々しそうな顔をし、吐き捨てるように語る。
「それは享楽、楽しんでる匂いじゃ、それに殺意が合わさって考えられることは、楽しんで狩りをしてる感覚。あやつめ、わっちの正体を知ってなお、そんな感覚でおるのよ、金持ちの人間がよくやっている、弱い狐を追い回す狩りのようにの、……まったくわっちも舐められたものよ」
狐を狩る金持ちの狩りとは、貴族がよくやっている狐狩りの事だろうか? とにかくホロは、舐められている事で相当な御冠らしい。
それがイライラしている原因だったのか。
それにしても、ルナは黒の剣士に戦わせる他力本願な力しか、ホロに対抗する手段がないのに、なぜそんな楽しむ余裕があるのだろう?
そんな余裕は黒の剣士を制御出来てなければ生まれないはず、だとすると、もしかしたら黒の剣士はルナに雇われているのかも知れない。
それならばルナが、聞いたこともない黒の剣士の話を知ってたり、その後都合よく黒の剣士が現れたのもつじつまが合う。
ホロを殺したいだけなら不意討ちすればとも思うが、ホロが言う通り、ルナが楽しんで狩りをしてるのなら、趣向を凝らしたと言う事で重ねて説明がつく。
まあ、とにかくだ。
ここまで情報がまとまってきたなら、そろそろ決断しなければいけない。
そう思ったロレンスは意を決して口を開く。
「……ルナは切ろう」
ホロはその言葉に耳をピクン、と反応させロレンスの方を見る。
「いいのかや? まだわっちの推測の域じゃし、それに商会での主の立場が」
ホロは、不安げに眉根をハの字にひそめ、ロレンスを心配そうに見つめる。
そんなホロを見てロレンスは、努めて穏やかに笑って聞き返す。
「とりあえずお前の推測をまとめると、ルナは人間、おそらくはお前の正体を知っていて、お前を狩ろうとしている。それで間違いないないな?」
「うむ、奴の心の匂いはそう言っておる」
「だったら構わないさ、商会も大事だが、お前の方がもっと大事だからな。ルナがお前の命を狙ってるなら考えるまでもないさ」
「え!? あ、うん、……そう、かや、うん」
「?」
急にホロの返しが訥々になるので、気になって見てみると顔を赤くして俯いていた。
照れているのか?
しかしホロがあの程度の言葉で素で照れるのはおかしい。
いやありえない。
……これは、パイッツオの地下水路を逃げていたときホロが、そんなわっちが可愛いんだろう? と言われたとき、からかってくるホロに勝ちたくて、ああ可愛いさ、と言い返したとき、ホロは、……うれしい、と恋する少女が、ロレンスの言葉に、本気で嬉しがる『演技』をされ、それにまんまと引っ掛かったロレンスは、結局からかわれてしまった事があったが、またそれなんだろうか?
こんな状況でもそんなやり取りを含ませられるのは、さすが賢狼ホロと言った感じである。
しかし、こんな状況でもそれに付き合うべきなのだろうか?
うーむ。
黒の剣士との距離が気になるところではあるが、まあちょっと話したところで、行軍の速度が変わるわけでもない、付き合うのも男の甲斐性であろう。
そう思ったロレンスは、咳払い一つして喉を整えホロに語りかける。
「ど、どうした? 何か気になることでもあるのか?」
そう聞くとホロはもじもじしながら。
「そ、そのな? 主が同郷の友よりの? わっちを選んでくれることに、わっちは、わっちは、……本当に嬉しく思う」
ホロは頬を朱に染め、遠慮しがちににチラチラとこちらを見ながら言ってくる。
……これはやばい、凄い効く。
さすがホロだ、あの時以上に男を篭絡させる演技をして攻めてくる。
それが例え演技だとわかって身構えていても、心のうちに動揺の波紋が広がるのを押さえられない。
ホロがしたそれはそれほどのものだった。
しかしロレンスも出会ったばかりの時の小僧のままではない。
動揺だけは、なんとか外に漏らさず堪えきり、そして今も激しく鳴り続ける心臓の鼓動に流されず、平静を保ち、冷静に沈着に、そのホロの言葉に対し、返されて喜びそうな言葉を撰んで口を開く。
「あ、当たり前だろう。そ、そのお前とはいつか一緒になるつもりだし、仕事も大事だが、一生の伴侶の方がもっとだ、大事にするに決まってるだろ、う?」
訥々になってしまった。
もう少しスマートに言える自信があったが、現実はままならないものだ。
ロレンスは気恥ずかしさからさ、頬を掻きながら、チラリとホロの方を見て反応を確かめる。
するとホロは、意外にも顔を真っ赤にさせて深く俯いていた。
え? なんだこの反応。
失敗したと思った返しで、凄い効いているように見えるから呆気に取られてしまう。
いかんいかん、まだ勝負は終わったわけではない。
これも演技だったらまたらからかわれてしまう。
そう思ったロレンスは、飲まれないように気を引き締めてホロの言葉を待った。
しかしホロは、そんなロレンスのがっちり固めて身構えた防御壁を、簡単に打ち崩す強烈な言葉を言い放つ。
「わ、わっちもの? そそろそろかのと思ってたからの? だ、たからの? 次の町についたら、と、泊まる宿は、コ、コル坊は、べ、別の部屋にして、ひ、久しぶりに二人で泊まらんかの?」
「ぶーーーーー!!!」
ロレンスはその言葉を聞いて、たまらず、何を飲んでる訳でもなかったが吹き出してしまう。
久しぶりにと言っても、前二人旅をしてただ同室で泊まった時とは意味合いが違うことは、さすがのロレンスでも理解できる。
出きる分驚きは隠せなかった。
「だ、だめかの?」
いきなり吹き出したロレンスに、ホロも驚いたのか、不安げなような心配してるような、そんな顔をして聞き直す。
そんなホロの顔を見て、ロレンスはやはりこいつはずるいと再認識する。
しかし、その再認識がこの後ロレンスの人生史上、最大の失敗を招いてしまうことになってしまう。
「おお前! さすがにそ、それを出してくるのはさすがにずるいぞ!」
「……? それを出す? ずるい? な、なんの話しかや?」
「だからその話で切り返すのはずるいって……」
「ず、ずるい? よ、よくわからんが主はわっちが相手では、そ、その……嫌だったのか?」
……? 正直、素に戻された時点で負けたと思ったが、なぜかホロはたどたどしいまま、いつもならここで俺をからかう言葉が出てくるところだが 、しかしホロの頬は以前朱に染まったまま、不安げな上目使いでロレンスの返答に息を飲んでる様子。
息を飲んだり上目使いは演技でどうにでもなるが、頬を染めるのは意識してできることだろうか?
旅の劇団や大きな街にある劇場などに所属する熟練の役者は、どんな感情も演じる事ができ、泣く位なら簡単にできると聞いた事があったが頬を赤くする演技はどうだったか?
泣く位なら俺にも何とか出来そうな感覚があったが、頬を赤くするやり方だけはどうにもピンと来ない。
自分にはわからないやり方があるのだろうか? そ、それとも本当なのか。
い、いや、前の会話でなにか怪しいところがあったかもしれない。
これに乗ってしまうと効いてくるような遅効性の毒が。
「……? 主?」
―――毒が
上目使いのまま覗きこむように顔を近づけてくるホロ。
その顔は以前赤いまま、それが自分のためだと考えると顔がカーっと熱くなり。
見つめてくる潤んだ瞳が、自分のためだと思うと心臓の鼓動が早鐘となり。
不安げに聞いてくる声色が、自分が求められていると言う誇らしさで背中がゾワゾワさせる。
その全ての事柄が、ロレンスの思考力をあっさりと霧散させ、うっかりと。
「お、お前、まさか、ほ、本気だったのか!? 冗談じゃなく!?」
本当にうっかりと思ったままの事を言ってしまう。
その言葉を聞いたホロは、キョトンとした顔をしながらロレンスを見つめ続け、そして数瞬後、ロレンスが今なにを思い何故そんな事を言い出したのかを理解したらしく、顔全体が急激に紅く染まっていく。
紅く染まると言っても恋の色ではなく、つり上がった目と眉が教えてくれる怒りのそれ。
「ぬ、ぬ主は、今までのやり取りを、じょ、冗談かと……思っていたんかや?」
「ホ、ホロ! 俺も、ぐはっ!」
ホロの真意を知ったロレンスは急いで同意しようとしたが、突如襲う脇腹の痛みに阻害される。
見ればホロの細腕がめり込んでいた。
「主よ、時節を過ぎた甘言は怒りにしかならぬと前に教えたよの?」
「……はい」
「……ふん」
まったくと言った感じに、ホロは顔をプイっとロレンスから反らすと、今度は人差し指をコルが見えるように立て、クイクイと呼ぶように動かす。
少し離れた位置な上、闇夜で見えにくそうではあったが、コルはそんなものはまるで気にもならずに、目敏くホロが呼んでる事に気づき即座に駆け寄ってくる。
目が良いのもさすがだが、声もかけないあれだけの合図で、ホロが呼んでいる事にすぐ気づくのは、本当によく気が利く子であると思うが、最近ではホロに調教された犬ようにも見えてしまい、狼に調教された犬みたいに考えると少し可笑しく感じていた。
「……と言う感じで振り切る。わかったかや? 主もいいな?」
「え?」
とコルとホロの最近の関係を考えてたら、いつの間にかホロが小声で何かを言っていたらしい。
いつでも真剣に聞く姿勢を崩さないコルは聞いたみたいだが、ロレンスは聞き逃してしまった。
普段なら商人の職業柄、人の話を聞き逃がすなど絶対にやらないのだが、どうやら先ほどの事がかなりこたえているみたいだ。
「……主よ、何をボーっとしておる? ルナから逃げるのじゃろう? 今わっちに良い思い付きがあったから話しておったのになにも聞いてなかったのか?」
ホロは、ロレンスの表情だけで全て悟ったらしく呆れ顔で非難する。
「す、すまん」
本当に今日は駄目だ。また謝っている自分を鑑みて、ロレンスは自己嫌悪を痛烈に感じる。
ホロの中にある自分の評価もガタ落ちになり嫌われたかも。

ロレンスは、そう思うくらい自己嫌悪をし落ち込んだ。
―――しかし
「そ、そんなに残念だったのか、ま、まったく、これがまだ勝負の途中なら、なかなか駆け引きが上手くなったと言わざるおえんの?」
と、そんなロレンスの心配とは裏腹に、ホロは顔を緩めて嬉しそうにそう言う。
「……もう勝負であっても、その顔が見れれば負けでいいよ」
ロレンスは、もう読み合いや駆け引きなど全て忘れ、本音を、心そこから涌き出たありのままの気持ちを声に出す。
それを聞いたホロは大きく目を開いて驚くようにロレンスを見ると、すぐに顔をふせ頬を赤くしながら「……うむ」と小声でいい、そして続けて同じく小さな声で。
「……じゃ、じゃあ街についたら、の?」
と、不意にそのような事を言われるので、ロレンスは言葉の真意を聞くために「え?」と聞き返すとホロは「な、なんでもありんせん!」と言い顔プイと背けてしまう。
そして照れ隠しをするように
「そんな事より今じゃ! いいか主よもう一度言うからよく聞くのだぞ? 小僧から逃げるわっちの考えを!」
「あ、ああ!」
今度は聞き逃さないようにしっかりと耳を傾け、ロレンスはホロの言葉を待つ。

 

続く

 

・次回

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・見たい狼と香辛料ベルセルク、クロスオーバー小説を探す。

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