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狼と香辛料xベルセルククロスオーバー小説、ガッツ「お前に鉄塊をぶちこんでやる」ホロ「!?」 その9

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狼と香辛料ベルセルクのクロスオーバー小説です。

狼と香辛料ほんわか御伽話風の雰囲気を、ベルセルクのグロさが多少壊してしまう感じになっていますが、それでも良いって方、興味が湧いた方は是非是非読んで下さいませ。

 

・前回のあらすじ

黒の剣士…ガッツがルナに吹き飛ばされ森の奥にいた頃、ホロはルナに何故自分を狙うのか? その事を聞いていた。

そのホロの問いにルナは、いいだろう、と言う体で意外にも話してくれた。

その話の内容はルナの過去、使徒となった経緯だった。

その身勝手な恋の物語の先にあった悍ましい結末の末、使徒になったのだと。

そして続けざまに聞いた、ルナがあの月を狩る熊で、しかも狼を食ったと言う言葉に怒ったホロは、ルナに飛びかかるが、巨大化させたルナの手だけで返り討ちにあってしまう。

そして弱ったホロを、ルナは自身の渇望を満たすために食うのだった。

 

【消えた小さき火】

 

闇夜を白く幻想的に、そして優しく照らした月の光が、赤の光に変わる。
強盗、殺人、略奪、戦争───。
そんな、この世の酷い事が。
その全てを表しているかのような、そんな赤色に変わる。
ロレンスの顔にかかった、赤色の液体が。
ホロのそれが───。
「おおおお…」
ロレンスは悲痛なうめきを上げて、生暖かく、ぬたついた血に染まった顔を手で覆う。
残酷な現実から目を背けるために。
しかし現実はロレンスの逃避を赦さなかった。
「がああぁぁぁああ!!!」
辺りを引き裂かんばかりの、獣の咆哮。
喰われたホロの断末魔。
その声がロレンスを、さらに絶望で満たす。
「おのれ…! おのれ!」
ホロのもがく声が耳に突き刺さる。
しかし自分にはもうどうする事も出来ない。
ホロを助ける事は出来ない。
しかし───。
だがしかし、ホロを助けられなくても、ロレンスに出来る事は一つ…ある。
それは愛する者を奪った、目の前の外道に、この銀の短剣を突き立てて、一矢報いてやる事だ───。
ロレンスは涙でぐちゃぐちゃになった顔を怒りで歪ませて、心を怒りで震わせて、意を決して顔を上げる。
「うおおぉぉぁぁぁああ!!!」
ロレンスは叫ぶと、ルナの足に向かって銀の短剣を振り上げた。
その時だった。
「おのれ…! この下等な人間がぁぁあああ!!」
…? 下等な…人間?
声の主は確かに、人とは違う、獣に近い声色だが。
そう言えば違う。
ホロが狼化した声とは違うし、何より下等な人間。
ホロなら言わない言葉だ。
それにはっとしたロレンスは、震える気持ちを押さえながら、冷静に辺り見る。
すると、今も鮮血が噴水のように吹き出し、ロレンスの体にかかっていたが、しかしそれは遥か頭上で、ルナに捕まれているホロの物では無かった。
違ったのだ。
血の出どころは直ぐ隣。
樹齢数百年の巨木と思わせるほどの、巨大な、獣化したルナの足に、黒く、鈍い光を放つ、鉄の塊、鉄塊、それが深々と食い込んでいた。
黒の剣士の巨剣が。
その巨剣が、ルナの巨足に大きな傷を負わせ、その傷から血が吹き出していたのだ。
ロレンスはその光景が一瞬理解出来なかった。
理解が追い付かなかったのだ。
何故黒の剣士が? ホロを殺そうとしてたのに? 味方してくれるのか? 敵じゃ無かったのか? 湖底の底から浮かび上がってくる泡のように、次々に出てくる疑問が、ロレンスをさらに戸惑わせた。
しかし、限られた時間で、決められた時節で、商談や会話をして鍛えられてきた、商人のロレンスは、戸惑いながらも状況を整理し、考えをまとめる。
とにかく黒の剣士がルナの巨足切ったのだ、と。
それでホロが食われるのを止められた。
そう言う流れになったのだ。
そう言う結果になったのだ。
ならば自分は次にどう行動する。
どう行動すればホロを助けられる事が出来る? ロレンスは先程まで感じていた、ルナ殺そうとしていた気持ちの高ぶりもすっかり冷め、冷静に、沈着に、自分に何が出来るのか? 今だルナの手の中にいるホロを見つめ考える。
すると、ホロの口の端が───。
ロレンスがホロを見つめ、何かに気づく。
気づいた時だった。
バリィ! と音が聞こえてくる。
音の出どころは、直ぐとなり、真横、今だビュルビュルと血を吹き出しているルナの巨足の近く。
その傷を負わせた巨剣、その剣を持つ者、黒の剣士、彼の口の辺りから、聞こえてきた。
バリバリバリと、どうやら歯を噛み締めている音らしい。
そうロレンスが理解した瞬間だった。
風が吹き荒れた。
ロレンスの近くを何かが通り抜ける風が流れた。
それは黒く、大きく、平べったいそれだった。
黒の剣士の巨剣が、ルナの足に深々と食い込んでいた巨剣が、その肉を、肉を引き裂きながら振り抜かれたのだった。
あの巨木より固そうな並々ならぬ筋肉の塊で出来てそうな、ルナの巨足を、その筋肉を───切ったのだ。
何て奴だ…。
ロレンスがそう思った瞬間。
「ぐぎゃあああぁぁぁああーーー!!」
頭上から断末魔にも近い声が、辺りに響き渡る。
とてつもなく大きい声が響き渡る。
それだけで、身が砕かれそうなくらいの、そんな大きな声が。
そして堪らずと言った感じにルナは片足をつく。
「この…ゴミ虫どもがあぁぁぁ…」
ルナは地を這うような恐ろしい声で言う。
そしてホロを掴む手に力を込める。
「ぐ…」
ホロは苦しそうに、小さな呻きを漏らす。
その瞬間、その声を聞いた瞬間、ロレンスは、はっとし、そして今も血を吹き出しているルナの傷を見る。
そして即座に決めた。
自分がするべき事を。
ホロを救うためにする事を。
ロレンスは折れた銀の短剣を構え、ルナの傷口に飛び込み、そしてその傷に突き刺した。
突き刺して傷をかき回した。
これでもかと言う位、ぐちゃぐちゃと。
ルナの大きさに比べたら、針ほどの、しかも折れて短くなった短剣だったが、ロレンスが与えたかった効果が出るには十分だった。
その効果、傷みを与えるには。
「ぐぉおおおおぉぉぉおお!!」
それを証明するかのように、ルナの苦悶の声が響き渡る。
そしてその痛みから、ホロを掴むルナの手が緩む。
その瞬間、ホロの目がカッと見開き、首だけを動かし、ルナの指に噛みつく。
噛みつき食いちぎる。
「があああああああ!!!」
そして、痛みから完全に緩んだ手を踏み台に、飛び退る。
そしてそのまま地上に降り立ったが、足の矢傷のせいか、ヨロヨロとした足取りになっていた。
「ホロ!」
ロレンスはすぐにホロの側へと駆け寄る。
しかしホロはそれに、くわっと牙を剥き出して、威嚇するような態度を取る。
「ホロ…?」
「全くこの…大たわけが…! なんと言う無茶を…」
ホロの怒りはその事だった。
それにロレンスは、心配してくれた嬉しさからおどけたように返す。
「口の端が動いていた。脱出する機会をうかがっていたんだろ? 俺はその機会を作っただけさ」
ホロはその言葉を聞くと、嘆息したように溜め息を漏らしながら言う。
「ふん…わっちとした事が、また主に大きな借りを作ってしまったようじゃの」
「…その程度の借り、お前が少し食事を節制するように、心掛ければいいさ」
「くふ…やはりこの借りは大きな物になってしまいそうじゃのう…」
「お前に取ってはな」
ロレンスがニヤリと言うと、ホロも口の端を上げ、笑っているかのようにする。
その時だった。
「危ない!」
突如二人に投げ掛けられる声。
「分かっておるわ!」
「え!?」
理解示すホロとは対照的にロレンスは、何が危ないのか、そして誰が声をかけたのかすら分からなかった。
分からなかったから、とりあえずその声の方向へ目を向けると、そこには、あの妖精がいた。
襲ってきた黒の剣士から助けてくれた、あの妖精がいたのだ。
その妖精が、こちらに向かって叫んでいた。
声をよく通るようにするためか、口の両端辺りに、両の手のひらを添えて叫んでいた。
そして何が危ないのか、頭上から射しかかった影が気づかせた。
影の出どころに目を向けると、そこには、毛むくじゃらの太く大きいそれが迫っていたのだ。
そのルナの手が。
その瞬間、ロレンスは首根っこを捕まれるような感覚で、後ろに引っ張られる。
ホロが、ロレンスの襟首を器用に噛み掴んで飛び退ったのだ。
その瞬間、今までいたそこが爆発する。
土が飛び散り、倒木はバラバラになり、草は根ごとぶっ飛んだ。
叩きつけられたルナの巨大な拳が、地面を文字通り見た通り、爆発させたのだ。
何と言う威力。
しかし考える間もなく、今度はホロに咄嗟に引っ張られた襟首が、首を瞬間的に絞める。
「が…!」
「…!」
ホロは直ぐに気付き、地面におりる前に襟首を離す。
急に離されて、勢いから、地面を転がるロレンス。
しかしそんな傷みもより、気道を絞められた苦しさから、ロレンスは猛烈に咳き込む。
「がはっ! げほ! げぇほ!」
「す、すまん…主よ、咄嗟の事で…」
「ぐほ…だ、大丈夫…気にするな」
「そうかならば…ぐ…!」
「けほけほ…ホロ?」
今度はホロが呻きを漏らす。
見れば、黒の剣士に矢を射たれた後ろ足から痛々しく血が流れていた。
「…お前こそ大丈夫か」
「…大丈夫…と言う訳ではありんせんが、何長い年月生きていれば、この程度の傷みは何度も経験済みじゃ、どうと言う事は…!」
ホロが喋り終わる前に、またルナが拳を降り下ろしてくる。
「主よ…掴まれ!」
毛に、と言う言葉まで聞かなくても分かったロレンスは、咄嗟にホロの体毛にしがみつく。
途端に感じる浮遊感。
「うああああああ!!!」
ホロが飛んでルナの拳をかわすのは分かっていたが、慣れない感覚が、悲鳴が漏れ出るのを止めさせない。
そしてそんな恐ろしい浮遊感を感じる中、ロレンスは思った。
そう言えばコルはどうなったのか? その事を。
限られた時間の中で、目だけを動かして辺りを見る。
すると、草葉の陰で、隠れるように縮こまっていたコルが一瞬目に入る。
それにほっとした安堵を覚えるロレンス。
そしてそんな安堵が油断の元になったか、コルを見て安堵の溜め息を漏らした瞬間、ドスン、とまるで体全体が振り回されるような衝撃を受ける。
ホロが地面に降り立った時に来た衝撃だ。
後から頭で理解したが、直後の、不意打ちのように受けてしまった衝撃に、つい手を離してしまい、再び地面に転がる。
「主よ! 手を離すな! 今度離したらもう拾わんぞ!」
「ああ…す、すまん、…だが」
ロレンスは謝るも、二度目の跳躍が、かなりルナから距離を取った事で、余裕を感じる。
ルナは黒の剣士に思いっきり足を斬られていた、その足では、ここには一気には来れまい、と言う確信も合わせた余裕。
さらに、遠目でルナの方を見ると、黒の剣士に斬りかかれたらしく、二人は小競り合いしていた。
巨剣に巨体では、小競り合いと言う言葉は似つかわしく無いかもしれないが。
とにかく、俺たちがルナの二度目の攻撃をかわした後、黒の剣士が再びルナに斬りかかったらしい。
こっちも切羽詰まった状況だったから、詳しい詳細は分からないが。
まあルナの意識がこちらに向いてたところを狙って攻撃したのだろう。
俺とホロを囮にして攻撃のチャンスを伺っていたのだろう。
それから考えると、黒の剣士は仲間じゃ無いのは当然にしろ、やはり気を許してはいけない相手だと言うことは確実だろう。
ともあれ、黒の剣士とルナが戦い始めたおかげで、少しばかりの時間を猶予を得ることが出来た。
だからホロと少し話す事にした。
「だが、なんじゃ?」
遠目にあっても、黒の剣士と戦っていても、決して油断はしないかのように、目をルナから離さず聞くホロ。
それとは対照的に、やはり商人からか、ついついチラリと相手、ホロを見て話してしまうロレンス。
人と目を合わして話すのは、商人以前の人として常識。
そしてそれは大切な話をする時は必要な事だ。
ロレンスはそれを胸に、その大切な話をするため、真摯な姿勢で話に望む。
そして言う
「本気で戦うのか?」
ロレンスは短く聞いた、意味が率直に分かるように。
ルナと本気で戦うのか? と、その事を。
もっともな話だ。
黒の剣士が敵じゃなく一緒に戦ってくれるかも知れない。
ホロも巨大な狼の姿で戦うかも知れない。
それでも、それが合わさっても。
あれに、あのホロを超える山のように巨大なルナと戦うのは、どう考えても無謀だ。
誰が見ても考えても、勝機はない。
それはホロも分かっているはず。
でもホロにも、それでも引けない訳がある。
それは奴に、ルナに、ヨイツの故郷を滅ぼされたから、仲間を殺されたから。
ホロには戦う理由が、戦ってルナを殺さなければいけない理由があるのだ。
それが分かっていてロレンスは聞いた。
出来るなら、仇など忘れてホロには生きて欲しいから。
生きて俺の側にずっといて欲しいから。
だから聞いた。
しかし同時に、ホロが覚悟を決めれば、自分も死を覚悟して戦う決意もあった。
もうホロが居ない人生など、考えられないから。
ホロが死ぬならば、自分も死のう。
例えホロが嫌がっても、俺はホロのために戦って死ぬ。
役に立たないのは分かっている。
それでも一太刀、それも叶わぬなら口の一太刀を商人らしく浴びせてやる。
死ぬならば、どんな形にしろ、必ずホロのために、この命を使うのだ。
恐れは───無い。
ロレンスそんな覚悟を心の内に決め、聞いたのだ。
本気で戦うのか? と、その事を。
ホロの返答はまだ無い。
きっと心の匂いから、ロレンスの覚悟を読み取ったのだろう。
だから、どう言おうか悩んでいるのだろう。
ホロもまた、ロレンスと同じくらい、ロレンスを大切に思っているから。
だから簡単に死んでくれ、と言えないのだろう。
でも仲間を殺したルナも見過ごすことは出来ないのだろう。
答えが出せなくて当然だ。
悩んで当然だ。
本来なら、こんな切羽詰まった状況では聞く物ではない。
だけど、これが最後になるのなら。
最後になってしまうのなら。
覚悟を決める事が出来る言葉が欲しい。
愛する人のその口から。
しかし現実は残酷だ。
時間と言うのは容赦なく流れ、その時を迎えさせる。
それが分かっていたから、ロレンスは答えを促すように、引き出すように、この言葉をかけた。
「愚問だったか?」
それは聞くまでもない、と言う意味。
帰る故郷や待つ友を奪った相手を、気高いホロが見過ごす訳がない。
それがホロの性格だ。
長い月日を共に旅してきたから分かる。
だからホロはルナを殺す、例え自分に敵わぬ相手でも。
引かずに殺す、どんなことをしてでも。
だから、愚問だったか? と聞けば、ああそうじゃの、と返すだろう。
そう見越しての質問だ。
そう思っての質問だった。
しかし返ってきた答えは。
「たわけ」
「え?」
予期しない叱咤。
思わぬ返しに、半ば放心するロレンスに、ホロは嘆息気味に言葉を続ける。
「…確かにあやつは、わっちの故郷を滅ぼし、仲間を追いやり、そして最悪殺した。だから殺してやりたい、この牙で引き裂いてやりたい」
「…ホロ」
「…じゃが、それよりも今は大切な物があるんじゃ、主よ、それが何なのか分かりんすか?」
ホロは、今までルナに向けていた視線を外し、ロレンスを真っ直ぐ見て聞く。
「大切な物…それは…」
「…それは、主とこれから共に歩む人生の時間じゃ」
ロレンスはホロの問いに、そうなのか? と分かってても、気恥ずかしくて中々口に出せなかったことを、ロレンスの言葉に被せるように言う。
そうだと思ってた事を。
そうなら嬉しいと思ってた事を。
ホロは言う。
「全く、分かっておる癖に言わせるな、恥ずかしい」
「お前が勝手に言ったんだろ…」
ロレンスは嬉しそうに溜め息を漏らすと、売り言葉に買い言葉を返す。
「で、本当に良いんだな」
「構わんと言っている…何度も言わせるな」
「良し…じゃあコルを拾って逃げるぞ、コルはあそこの草むらの影に隠れている」
「それも分かっておるわ。わっちの感覚を忘れたかや?」
「いや、念のための確認さ」
「くふ」
ロレンスの分かっているから出る軽口に、気持ち良さそうに笑うホロ。
お互いの気持ちが一緒になったと言う確信を得たことで、ロレンスはコルを助けるべく、コルが隠れている草むらに目を向ける。
コルはそこにいるのが、夜目に弱いロレンスでも見えた。
確かにそこにいる。
そして今ルナは黒の剣士との戦いで、こちらに気づいていない。
遠目で戦うルナと黒の剣士の姿が見える。
大振りに振り回す、ルナの巨腕を見事にかわしながら、一太刀一太刀確実に入れていく、黒の剣士の戦う姿は見事と言うか、あまりに人間離れをしていて息を飲む。
あの巨体に一歩も引かないとは。
歴戦の騎士や傭兵でも、彼のような戦いを出来る者は、この世にはいないだろう。
そう感じさせるほど、黒の剣士の戦い方は凄まじく、そして目を奪われるほど美しかった。
生きる力が満ち溢れているような、汗臭く泥臭い美しさだった。
しかし今はそれに目を奪われている場合では無い。
黒の剣士が戦っているうちに、この場から逃げなければ。
ルナの気が、今度は黒の剣士に向いているうちに。
黒の剣士を囮にして、逃げるのだ。
ホロが食われそうになった時、彼が足を切った事で助かったから、囮にすることに多少の罪悪感も感じるが。
元々共闘していた訳ではない。
あちらも、こっちを利用して攻撃のチャンスにしていた。
つまりはお互い様だ。
だから今度はこちらが利用してやるのだ。
ロレンスは、そう思考に強く刻み、人として感じる罪悪感を振り落とし、ホロに声をかける。
「すぐにコルを拾って逃げるぞ!」
そう言うとホロの背中にまたがり、体毛をしっかり掴む。
「うむ!」
そう言った直後には、もう駆け出していたホロ。
足に傷を負ってるとは思えない早さで、コルの場所に向かう。
そしてコルを拾って。
拾って。
拾ったと思った。
ホロがそこにつくほんの少し手前で、突然突風が巻き起こった。
ルナから逃げるため、森を疾走してた時に感じた。
突然、上空を過ぎ去った風と同じような、そんな突風が巻き起こった。
巻き起こり、そして。
地面が爆ぜた。
ゆっくりとした時間の流れにいるような感覚を味わう。
ゆっくりと飛ぶ、土や草木。
草の根に土がこびりついてるのがはっきりと分かる、見える。
そして轟音と共に、突然まわりの動きが速くなる。
そして衝撃波がホロとホロに乗った俺を、まるで風に飛ばされる木葉のように、吹き飛ばす。
そして、地面に叩きつけられる。
「ぐぅ…」
巨大な狼となったホロも、さすがにこの勢いで地面に叩きつけられては、呻きの一つも出る。
「く…何が…だ、大丈夫かホロ?」
「…」
「ホロ…!?」
返事がないホロに不安を覚え、語尾を強めて呼ぶが。
よくよく見れば、目はしっかりと開いており、既に起き上がっていた。
足取りもしっかりしてそうだ。
それに安堵の溜め息を漏らすロレンス。
「何だ…大丈夫そうじゃないか、心配させるな…」
「…」
そのロレンスの言葉にも、ホロは何も返さない。
「ホロ…?」
「…」
いくら声をかけても、ホロはロレンスに顔を向けない。
言葉も返さない。
ただ見据えていた。
その場所を。
「…?」
ロレンスは一体何を見ているのかと、ホロが見つめる先を見てみると。
「…!」
息を飲んだ。
背筋にぞわぞわする物がかけ上がってくるのを感じた。
ホロが見つめる先には、ルナが立っていたのだ。
そして、その周囲は吹き飛んでいた。
ルナの足元から中心に吹き飛んでいた。
コルがいたその場所が…吹き飛んでいた。
「コ…ル…ぐく」
胃から迫り上がってきそうな無念。
頭を破裂させそうな失意。
「バカな!」
抑えきれない感情が、溢れ出させるように、吐くように、その言葉を言わせた。
そして目尻に涙が溢れだし、頭は地面に吸い寄せられるように俯く。
「ぐふふふ…ざぁ~んね~んでしたぁ~」
しかし、それを妨げるように、嫌らしい声が響く。
ロレンスはその声に、はっとして、顔を上げる。
見上げる先には、ルナの、熊なのに、とても嫌らしく、醜悪な人間のように嫌らしく、ニタニタと笑うルナの顔がそこにあった。
そしてルナは言う、嫌らしく言葉を続ける。
「この私が、目の前のご馳走をむざむざ逃がす訳無いでしょ、本当に愚かだな、お前らは…くくく」
「き…さま…!」
ロレンスは、ルナの言葉に、腹の中に赤銅をぶちこまれたような、熱味を帯びた怒りを感じ、歯噛みする。
キリキリと歯噛みして、嫌らしく笑うルナを睨み付けるのだった。

続く

 

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